社団法人 日本木材保存協会 第20回記念年次大会 研究発表要旨(2004.05.19)

イエシロアリの巣を用いた
防蟻効力確認試験報告

廣瀬産業株式会社

1.はじめに

白蟻写真  関東以西に生息するイエシロアリ(右写真)は、木造家屋に侵入し、構造材、内装材などに過大な被害を与え、その修復費用は数百万円にも及ぶ。また、イエシロアリの多い地域では、鉄筋コンクリートなどの建物でもイエシロアリの被害が発生する。イエシロアリは家屋に侵入すると、被害が急激に拡大するため、イエシロアリの多い地域では、家屋への侵入防止が重要視されている。  一方、室内空気汚染対策に関連し、床下の環境改善、使用部材の食害軽減などの防蟻措置が推奨されている。住宅金融公庫の木造住宅工事共通仕様書、木造住宅のための住宅性能表示制度マニュアルなどでは、防蟻措置としてヒノキ、ヒバ材等耐蟻性の高い木材の使用を規定している。また市場では、木炭、木炭系塗料、ねこ土台など、いろいろな建材の防蟻措置が紹介されている。これら防蟻薬剤を使用しない防蟻措置と従来の防蟻薬剤を木部に使用した防蟻措置がイエシロアリの侵入防止にどの程度効果があるか、ヒノキ、ヒバ、木炭、木炭系塗料処理木材、ねこ土台、ピレスロイド系薬剤処理木材について、イエシロアリの巣を用いた防蟻効力確認試験を行った。

2.方法

2.1 白蟻飼育室

 ヒノキ、ピレスロイド系薬剤処理木材の試験は弊社屋内駐車場、事務所で風よけの衝立を設置し、試験を行った。ヒバ、木炭、木炭系塗料処理木材、ねこ土台の試験は、新たに設けた白蟻飼育室(10u)を使用した。飼育室壁と天井は100mmの断熱材で覆った。飼育室の加温は、室内を無風状態に保つため、オイルヒーターを使用した。ドア開閉時の風流入を防止するため、入り口内部にはビニールカーテンを設けた。

2.2 イエシロアリの巣飼育

飼育箱  鹿児島県内で5〜8年経過したイエシロアリの巣を採掘し、硬質プラスチック容器(800×560×高470mm)に入れ、水取装置を設置した。水取装置は内部が空洞で、外側下部は軽石、外側上部は砂で構成されており、内部の水位計測と水の補充用パイプが設けてある。設置時は、水取装置表面の砂が水分を含むまで、内部空洞部に水を補充した。シロアリの水取通路として、段ボールを内装したパイプでシロアリの巣と水取装置を連結した。イエシロアリの飼育状況を写真(右写真)に示す。設置1〜2日でシロアリは水取を始める。シロアリの水取を確認し、餌木も投与する。設置当初は、シロアリが外殻の補修など巣修復を行うため、餌木の食害は少ない。しかし、設置1〜2ヵ月後には巣の活動が安定し、餌木を積極的に食害するようになる。このように活動の安定した飼育イエシロアリの巣を試験に用いた。羽蟻の群飛時は、羽蟻により、木材の食害活動が阻害されるため、群飛期間を避けて試験した。

2.3 シロアリの習性

 飼育イエシロアリの巣の餌木を撤去し、巣上部にレンガと木材を置く。すると、シロアリは設置された異物に対し、積極的に探索活動を行い、蟻道、蟻土を構築し、木材を加害する。特に、加害部を無風状態に維持すると、風よけの蟻道、蟻土の形成が遅れ、シロアリの加害状況を直接観察できる。この習性を利用し、それぞれの部材ごとにシロアリがどのように蟻道、蟻土を形成し、部材または餌木をどの程度加害するか観察した。

2.4 各試験方法

2.4.1 ヒノキ

ヒノキ設置状況  家屋の布基礎、ヒノキ土台を想定し、イエシロアリの巣の上にレンガ(100×200×60mm)を置き、その上に鹿児島県産ヒノキ材(67×67×90mm)を置いた。餌木として、ベイツガの角材(67×67×67mm)と面取りしたベイツガ(67×30×90mm)をヒノキの上に置いた。ヒノキの設置状況を写真(左写真)に示す。設置したヒノキ、ベイツガに対し、シロアリがどのように蟻道、蟻土を形成し、ヒノキ、餌木をどの程度加害するか観察した。

2.4.2 ヒバ

ヒバ設置状況  家屋の布基礎、ヒノキ土台を想定し、イエシロアリの巣の上にレンガを置き、その上に愛媛県産ヒバ材を置いた。餌材としてベイツガの角材と面取りしたベイツガをヒバの上に置いた。ヒバの設置状況を写真(左写真)に示す。設置したヒバ、ベイツガに対し、シロアリがどのように蟻道、蟻土を形成し、ヒバ、餌木をどの程度加害するかを観察した。各木材の寸法はヒノキ試験と同一寸法で行った。

2.4.3 木炭

木炭設置状況  家屋の床下に施設された木炭を想定し、イエシロアリの巣の上にレンガを置き、その上に細かく砕いた市販の備長炭を1cm敷設した。シロアリが必ず木炭を介しベイツガに到達するように、木炭、ベイツガの上部を透明なアクリル板で覆った。木炭の設置状況を写真(左写真)に示す。シロアリが設置した木炭を忌避するか、又は木炭を貫通し餌木を食害するか観察した。

2.4.4 木炭系塗料処理剤

木炭系塗料  家屋の布基礎、木炭系塗料で処理された土台を想定し、イエシロアリの巣の上にレンガを置き、その上に木炭系塗料を塗布したベイツガを置いた。餌材として、ベイツガの角材と面取りしたベイツガを木炭系塗料処理木材の上に置いた。木炭系塗料処理木材の設置状況を写真(左写真)に示す。設置した木炭系塗料処理木材、ベイツガに対し、シロアリがどの様に蟻道、蟻土を形成し、処理木材、餌木をどの程度か害するか観察した。各木材の寸法はヒノキ試験と同一寸法で行った。

2.4.5 ねこ土台

ねこ土台  ねこ土台を設置した家屋の布基礎、ねこ土台、土台を想定し、イエシロアリの巣の上にレンガを置き、市販されているねこ土台(100×215×20mm)、その上に加圧注入土台(90×90×200mm 薬剤 CUAZ)を置いた。餌材として、ベイツガの角材(90×90×200mm)と面取りしたベイツガ(90×40×200mm)を加圧注入土台の上に置いた。ねこ土台の設置状況を写真(左写真)に示す。設置したねこ土台、加圧注入土台、ベイツガに対し、シロアリがどの様に蟻道、蟻土を形成し、加圧注入土台、餌木をどの程度加害するか観察した。

2.4.6 ピレスロイド系薬剤処理木材

ピレスロイド系薬剤処理木材  家屋の布基礎、ピレスロイド系薬剤で処理した土台を想定し、イエシロアリの巣の上にレンガを置き、その上にピレスロイド系薬剤(ペルメトリン0.2%)で処理したヒノキを置いた。餌材として、ベイツガの角材と面取りしたベイツガを薬剤処理木材の上に置いた。ピレスロイド系薬剤処理木材の設置状況を写真(左写真)に示す。設置したピレスロイド系薬剤処理木材、餌木に対し、シロアリがどのように蟻道、蟻土を形成し、薬剤処理木材、餌木をどの程度加害するか観察した。各木材の寸法はヒノキ試験と同一寸法で行った。

3.結果

3.1 ヒノキ

ヒノキ食害開始 ヒノキ結果  設置1時間でシロアリはヒノキ材を乗り越え、上部ベイツガを食害し始めた。設置3時間後にはヒノキ、ベイツガ共、多数のイエシロアリに覆われ、両部材とも食害が始まった(右写真)。数日後、シロアリは木材表面を蟻土で覆い始め、最後には木部全てが蟻土で覆われた。1ヵ月後、蟻土を壊し、食害状況を確認した。ヒノキ上部に設置したベイツガはシロアリに全て食害され、空洞になっていた。ヒノキは心材にも関わらず、年輪の晩材部分を残し、食害されていた(左写真)。

3.2 ヒバ

ヒバ食害開始 ヒバ結果  設置数時間でシロアリはヒバ材を乗り越え、上部ベイツガを食害し始めた。設置12時間後にはヒバ、ベイツガ共、多数のイエシロアリに覆われ、両部材とも食害が始まった(左写真)。数日後、シロアリは木材表面を蟻土で覆い始め、最後は木部全てが蟻土で覆われた。1ヵ月後、蟻土を壊し食害状況を確認した。ヒバ材上部に設置したベイツガは半分以上食害されていた。ヒバ材は木口角部が一部食害されていた。2ヵ月後、ベイツガは全て食害され、空洞になっていた。ヒバは中心部を一部残し、大半が食害されていた(右写真)。

3.3 木炭

木炭に挑むシロアリ 木炭結果  設置1時間後、シロアリは木炭を忌避することなく、木炭の上を歩き、2時間半後には木炭に挑むシロアリが確認された(左写真)。シロアリの体表には木炭の粉が付着していた。10時間後、シロアリは木炭層を貫通し、大量のシロアリがベイツガを食害していた(右写真)。ベイツガを加害していたシロアリは木炭貫通の際、木炭の微粉末を取り込み、腹部が黒色になっていた。

3.4 木炭系塗料

木炭系塗料を覆うシロアリ 木炭系塗料結果  設置15分後には木炭系塗料を乗り越え、上部餌木を加害するシロアリが観察された。12時間後には木炭系塗料、餌木共、多数のシロアリで覆われた(左写真)。数日後、シロアリは木材表面を蟻土で覆い始め、木部は全て蟻土で覆われた。1ヵ月後、蟻土を壊し食害状況を確認した。木炭系塗料処理木材上部に設置したベイツガは半分以上食害されていた。木炭系塗料処理木材は木口が一部食害されていた(右写真)。2ヵ月後、上部ベイツガは全て食害され空洞になっていた。木炭系塗料処理木材も内部が全て食害され空洞になっていた。木炭系塗料の塗膜だけが残っていた。

3.5 ねこ土台

ねこ土台を登るシロアリ ねこ土台結果  設置3時間後にはねこ土台を登るシロアリが確認された(左写真)。12時間後にはねこ土台に蟻道を構築し、加圧注入土台にも蟻道を形成中のシロアリが確認された。9日後には、ねこ土台、加圧注入土台にいくつもの蟻道が形成され、シロアリは上部ベイツガを活発に食害していた。(右写真)。試験終了時には、ねこ土台を乗り越えたシロアリがベイツガを全て食害していた。

3.6 ピレスロイド系薬剤処理木材

無処理木材との差 薬剤処理結果  設置2日経過してもピレスロイド系薬剤処理木材に蟻道は殆ど形成されなかった。4日目、処理木材木口に蟻道をやっと1本形成した。それでも上部木材に達したシロアリは僅かであり、無処理木材のシロアリ被害際だった差があった(左写真)。5ヵ月後、薬剤処理木材上部に設置されたベイツガは全て食害され空洞になっていた。 しかし、ピレスロイド系薬剤処理木材は一切食害されなかった(右写真)。

4.考察

 イエシロアリは、ヒノキ・ヒバ・木炭系塗料処理木材・ねこ土台のいずれも、数時間で乗り越え上部の餌木を加害した。1〜2ヶ月後には各部材上部の餌木は、殆ど食害された。ヒノキ、ヒバ、木炭系塗料処理木材そのものの食害も確認された。また、木炭の敷設部分も10時間で貫通され、木炭内部に設けられた木材も食害された。ヒノキ材・ヒバ材・ねこ土台を設置したり、木炭系塗料で木材を処理しても、イエシロアリはそれを乗り越え他の木材を加害することが確認された。また、木炭を敷設してもシロアリは木炭を通り抜け、木材を加害することが確認された。 一方、ピレスロイド系薬剤処理木材では蟻道の構築に4日間要し、防蟻薬剤による処理が他の防蟻措置に較べ、蟻道阻止効力に優れていることが確認された。また、薬剤処理木材は5ヶ月経過しても食害されておらず、耐蟻性の高い木材や木炭系塗料処理木材に較べ、食害防止効力が非常に高いことが確認された。ヒノキ、ヒバ材等耐蟻性の高い木材を使用する防蟻措置や、木炭、木炭系塗料、ねこ土台などを用いた防蟻措置だけではイエシロアリが侵入し、家屋に被害を与えることが予想される。他の防蟻措置との併用が必要と思われる。また、新しい防蟻措置の採用にあたっては、イエシロアリの多い地域を想定し、食害防止だけでなく、侵入防止についての評価が必要と思われる。 最後に、今回行ったイエシロアリの巣を用い、その習性を利用する防蟻効力確認試験は、非常に過酷な試験ではあるが、試験間隔を工夫することで、反復可能な試験が実施できる。飼育シロアリの活性確認、防蟻効果の判定方法など課題はあるが、今後いろいろな研究機関で研究検討され、イエシロアリに対する効力確認試験方法として確立されることを期待する。